イブン=ハルドゥーン 『歴史序説 1』 [本の紹介]

イブン=ハルドゥーンの『歴史序説 1』(岩波文庫)を読み終えました。だいぶ前から読んできた本で、読み終わるのに長い月日を要しました。

それほど難解ではなく(部分によるが)、かなり理論的に、マクロなことからミクロなことまで、王朝ができてから滅びるまでの推移とその原因を述べています。

王朝の成立は、人々の連帯意識による。連帯意識は、戦いや防衛の基礎となる。権力を持つということは、それ自身の中に腐敗と堕落への種を宿している。厳罰による統治は、民を卑屈へと貶める。

過去の、他の場所の王朝を見るにも、また、現代の世界を考えるにも、示唆深い英知の言葉をわれわれに届けてくれる。

序論において、この英知の人の深い学問性が示される。「歴史学は高貴だ」(1)と宣言し、いままでの歴史学者たちの怪しげな説を根拠に基づいて論破していく。著者の論理性・実証性の躍如といったところである。

次に、各地の気候風土、それが人間に及ぼす影響、占いの真偽などを述べている。この部分に関しては現代の知識から見ると怪しいところがある。正直に言うと、固有名詞が多く、読みづらい部分でも有る。

最後が白眉の、田舎・砂漠と都市の文明の比較、王朝の成立から崩壊までの流れについて、彼の理論を尽くして叙述している。このあたりでは、王朝は連帯意識によって成立するが、時代がたつにつれて奢侈に流れ、そして滅んでいくということが述べられている。

ところどころで、理想の支配者や理想の政治についての見解も述べられている。微妙に『孫子』や『六韜(りくとう)』(2)を彷彿させるところがある。気のせいかもしれないが。

ともあれ、学問へわれわれを誘う一冊だ。






(1)イブン=ハルドゥーン(森本公誠 訳)『歴史序説 1』岩波文庫、2001、35ページ。
(2)中国の政治・兵法論の古典。日本語訳は中公文庫で読める。
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